飼猫・野良猫中央研究所

主に猫のこととスタートアップ・新規事業のこと。

京都の猫たちの「その後」

2年ほど前、京都の鴨川沿いの公園で暮らす猫たちのことについて記事を書いたことがある。

 

shashin.hatenablog.com

 

京都は大学時代を過ごした街で、卒業後もときどき里帰りのような気持ちで訪れているのだけれど、特にすることもないので鴨川沿いをよく散歩などしていて、そこで出会った猫について書いたのだった。

先日、このときに書いた猫たちの「その後」を知っているという方から、このブログにコメントをいただいた。(最近、忙しさにかまけてこのブログを放置していたので、コメントにも気づくのが遅れてしまった)

なんと、彼ら(彼女ら?)には引き取り手があらわれて、みんなそれぞれ、人の家で元気に暮らしているらしい。コメントをくださった方は、そのうち一匹を引き取った方とのこと。

この猫たちのことはずっと気になっていて、というか、その後も京都を訪れるたびに、最初に会った公園に足を運んで猫を探す、というようなこともしていたので、彼らの「その後」を知ることができてとてもうれしい。

 

アオザキ京子さん、このブログにたどり着いてくださって、しかもコメントをくださって、本当にありがとうございます。今もよく、彼らの写真を眺めては思い出しております。

「ヘカトンケイルシステム」についての雑感

先日、こんな記事が目に留まった。

救急・災害医療にドローン、実証実験始まる

救急医療・災害対応無人機等自動支援システム活用推進協議会(EDAC)が主催する「救急医療・災害対応におけるIoT利活用推進コンソーシアム」は2016年11月8日、救急医療・災害対応におけるIoT利活用モデル実証事業に関する実証実験を、九州大学伊都キャンパス(福岡市)で開始したと発表した。

EDACは、ドローンなどの技術を災害・救急用途に活用することを目指す団体。今回の事業は総務省のIoTサービス創出支援事業に採択されたもの。ヘカトンケイルシステムのリファレンスモデルを構築し、特区制度を活用した実証実験を通じてその普及のための課題や要件を整理する。ヘカトンケイルシステムとは、各種のウエアラブルデバイススマートフォンアプリ、119番通報などによる受動的情報収集と、ドローンなどの無人機による能動的情報収集やフィードバックを半自律的に統合するシステムを指す。

救急・災害医療にドローン、実証実験始まる:日経デジタルヘルス

 

ヘカトンケイルシステム!!真面目な記事の中にこの用語が出てきてのけぞりそうになった。

この「ヘカトンケイルシステム」なるものには元ネタが2つありまして、1つはギリシャ神話に出てくる3人の巨人、もう1つは、1980年代の日本のマンガ「アップルシード」に出てくるサイボーグ技術のことであります。(アップルシードのヘカトンケイレスもギリシャ神話が由来なので、源流は1つ)

そして、この 記事に出てくるヘカトンケイルシステムは、このマンガ「アップルシード」にあやかってつけられた名前だと思われる。

 

アップルシードに出てくる「ヘカトンケイルシステム」は、1人のサイボーグがたくさんの機械を自分の手足のように動かせるという技術で(合ってるかな。。。)、作中でこれを搭載している主人公(ブリアレオス)は、敵味方の兵器を自分の脳みそに接続して制御する、という芸当をやってのけている。

 

一方、冒頭の記事の事例では、色んなデバイスや機器を通して得た情報を、おそらくAIが統合して、消防や救急、警察等の主体にフィードバックしていく、というシステムのようだ。サイボーグとAIという違いはあれど、そして、実現する機能の違いはあれど、確かにコンセプトは似ている。

おそらく、このプロジェクトを企画した人の中にアップルシードファンの人がいて、こういうネーミングになったんだろうけど、それにしても、アップルシードというマンガがなければ、この発想に至らなかったのかもしれない。 

だとすると、マンガが実際に世の中を変えていく、ということが実際に起こっていると言ってしまってもいかもしれない。

甲殻機動隊リアライズプロジェクト」しかり、これから先、マンガやアニメ等のコンテンツ発の技術・アイデアが現実世界ににじみ出てくる、ということがたくさん起こってくる気がする。

そうだとしたら、魅力的なコンテンツを死ぬほどたくさん抱える日本は、これからがチャンスなのではないかと思う。

「コンテンツ・ドリブン・インダストリー」とか、「メイドインフィクション」とか、色んな言い方が出てきているみたいだけど、これからはこの分野だと思うのです。

これからも注目していこう。

 

(関連記事)

shashin.hatenablog.com

 

「ペット関連ビジネスの将来について」_月刊「事業構想」の取材で話したこと

(@kitayooo)と申します。

先日、月刊「事業構想」というビジネス雑誌からの取材がありました。テーマは「ペット関連ビジネスの将来」について。

その内容が今月号に載っているので、もしよろしければ書店等で手にとっていただければありがたいです(宣伝)。

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月刊事業構想 (2017年1月号『専門外で成功するペット産業』)

月刊事業構想 (2017年1月号『専門外で成功するペット産業』)

 

私はけっこうアドリブが効かない性格なので、取材していただくときには、いつもこちらの言いたいことをまとめたペーパーを事前に用意しておくようにしているのですが、当然ながらその全てが記事になる訳ではなく、大半はお蔵入りになってしまいます。

ただ、それだとちょっともったいないように思いますし、今回はこのブログで、そのときのペーパーの内容を公開してしまおうかと思います。あくまでアイデアをまとめた「メモ」なので、文章としてはおかしなところがたくさんありますがご勘弁ください。

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ペットと人間の関わりの変化

猫と犬は、人間社会のなかで、常に何かしらの「役割」を果たしてきた。

最初の役割は「働き手」としてのもの。猫は、やっかいなネズミを退治するという役割を持っていたし、犬は、人と一緒に獣を狩り、羊を追い、家の番をするという役割を持っていた。

人は、犬や猫のこのような「働き」を認めて、その対価として彼らに食事やねぐらを提供する、という側面があった。

一方で、犬や猫のそのような「働き口」は、今はほとんど失われている。その代わりとして、犬や猫たちが担うようになったのが、「愛玩動物」という役割だ。

「玩」という漢字は、「まるくかこんだ手の中でころがしてあそぶ」ことを意味する。「愛(め)でて、もてあそぶ」ことが「愛玩」の意味するところだ。

この時点では、ペットは「人」よりも「モノ」に近い存在で、「大切にするけど、人とは決定的に違うもの」であったと言える。

一方で、ここ数十年で、この「愛玩動物」という役割も徐々に変わりつつある。

経済的に豊かになりペットにかまう余裕が生まれたことや、核家族化・少子化の進行により、家庭の中でペットが占める重要度の割合が高まり、ペットは人間にとって「モノ」よりも「人」に近い存在へと変わっていく。

これは、大都市への人口の集中という現象とも関連がある。都市では、住宅が狭く近所との物理的な距離が近いために、大型犬などは飼いづらいし、犬を「庭で飼う」ようなことも難しく、小型犬の室内飼いが多くなる。猫に関しても、交通量が多く危険な都会では、自由に外出させるような飼い方を避ける飼い主が多く、室内飼いが多くなる。

室内飼いの環境では、ペットと飼い主が一緒にいる時間が長くなり、その分だけ愛情が湧く。こうして、ペットは「愛玩」動物から「伴侶」動物、「コンパニオンアニマル」へと役割を変え、今では犬や猫を「家族の一員」と考える人も多い。

また、最近では、人間は犬や猫に対して、もう一つの役割を与えている。それが、「魅力的なコンテンツ」としての役割である。雑誌では「猫を特集すると売れる」というのが定説となっているし、猫を扱ったテレビ番組、書籍やマンガも非常に多い。

このペットのコンテンツ化は、SNSの普及が原因の一つとなっていると考えられる。

SNSにおいて、ペットの写真や動画は、最も気軽に投稿できるものの一つである。多くの飼い主が、SNSで自分のペットについて発信し、それをもっと多くの人が目にする。そうするうちに、皆がペットコンテンツの魅力に気付き、今のペットコンテンツブームに繋がった。

このように、かつては人間にとって「働き者」であった犬や猫は、今では「家族」であり、かつ「魅力的なコンテンツ」となっている。

伸びつつある分野

「ペットの家族化」という視点から考えると、人が家族に対して「してあげたい」、「必要だ」と考えることのほとんど全てのサービス・商品に、潜在的には市場が存在すると言える。特に、人間では普及しているにも関わらず、ペットにはまだ十分に普及していないサービスや商品は、今後の市場拡大が予想される。

例えば、「健康」、「医療(保険)」、「介護」、「葬儀」、「レジャー」などは、ペットが愛玩動物だった頃はさほど重視されていなかったが、家族化が進んだことで重視されつつある。 

例えば、「ペット用品」市場は、ほぼ横ばいの状況だが、製品カテゴリで言うところの「デンタルケア用品」や、「おむつ」などは年率10%を超える勢いで成長している。

また、「ペット向けサービス」に関しては、データがあるものでは、「葬送」、「保険」、「医療」が大きく伸びている。

  • ペットの「再生医療」(脂肪由来幹細胞の培養と注射)とか。
  • 鍼灸、メディカルアロマとかも。

「介護」や「レジャー」に関してはデータはないが、大手の参入が増えているなど、確実に市場は拡大基調にある。

  • イオンペット(イオンモール幕張新都心)による、ペットの介護ケアサービス。24時間、介護スタッフ、獣医師在住。ジャペルも参入。
  • アニコムによる、「アニコパーク 西新宿」(閉園済み)
  • ペットと暮らしやすい沿線づくり「4&2経堂店」

ペット関連市場のなかでも大きな割合いを占める「ペットフード」に関しては、高齢犬や高齢猫専用のフード、健康に配慮した食品、特別療法食なども登場している。

  • 現代製薬から、機能性食材を利用した犬用栄養補助食品「ワンタス」
  • マルカン「ごん太のフルーツグラノーラ
  • 特別療法職(ロイヤルカナン、日本ヒルズコルゲート)

これらの領域に関しては、(保険を除き)まだ支配的なプレーヤーが現れていないので、今後、色々な企業が参入して市場が活発化していくと考えられる。

将来的に有望な事業領域

ここまでは、既に起こっている変化の話だった。以降は、少し踏み込んで、予想と期待が混ざった話をしたい。

これからは、「ペットの家族化」に「テクノロジーの発展」という要素が重なり、大きな市場が生まれると考えられる。

IoT、ロボット、ビッグデータ解析、AIなど、ここ数年で話題となっているテクノロジーの発展は、ペット関連ビジネスにも大きな影響を与える。

例えば、「ペットと飼い主のコミュニケーションを仲介する」、「ペットの情報を収集・分析しフィードバックする」というところは、ここ数年のテクノロジーの進化で実現できるようになったもので、全く新しい市場が生まれるところだと言える。(ペット用ウェアラブル市場が10年後には世界が2000億を超える、という予想もある。真偽不明)

情報収集(ウェアラブル)、情報の分析(ビッグデータ解析)、飼い主へのフィードバック(AI)、世話の自動化・高度化(ロボティクス)という感じ。

一方で、これらは対人間のサービスでもまだ始まったばかりなので、本格的な普及はもう少し先になりそう。現状ではまだ、事業として成功しているケースは少ない。

このような「ペット関連IoTビジネス」において重要な要素は以下の2点。この2要素を両方とも押さえた企業が市場を切り開く。

それは「テクノロジー」と「コミュニティ」だ。 

現在のところ、国内でも大手企業やベンチャー企業の多くがこの領域に取り組んでいるが、成功には至っていない。それは、テクノロジーには秀でているが、コミュニティの要素が足りていないから。

この手のビジネスには「大量の情報を集めるためのコミュニティ」が必ず必要だが、ベンチャー企業やテック系企業では知名度やノウハウの不足からコミュニティの形成までは至らない。そのため、今後はペット関連の「コミュニティ」を持つ企業が、この分野の拡大の鍵を握ると考えられる。

質の高いペット関連コミュニティを有する企業と言えば、アニコムのような保険会社、フェリシモのような通販会社、ほぼ日(ドコノコ)など。

例えば、アニコールとアニコムが組んだりすると、面白いことになるように思われる。おそらく、既にそのような動きは水面下で始まっているはず。

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と、このへんでタイムアップでした。

なにはともあれ、取材していただくのは本当にありがたいですね。こちらも、考えをまとめる良いきっかけになりました。

 

(kitayooo)

深センのハードウェア・スタートアップ・アクセラレータ「HAX」について

(@kitayooo)と申します。

今年の8月に、とあるツアーに参加して中国の「深セン」に行ってきました。

そのツアーは、チームラボの高須さんが主催する「ニコニコ技術部深セン観察会」。深センのメイカーズやハードウェア・スタートアップを取り巻く生態系を3日間かけて巡るというもので、とにかく刺激と情報量が多く面白い。

このツアーでは、参加者がそれぞれレポートを書くことになっていて、他のツアー参加者のレポートは以下のページにまとまっている。

第5回ニコ技深圳観察会(2016年08月) 感想まとめ:tks(高須 正和)のブロマガ - ブロマガ

他の皆さんが既にこれだけの記事を書いているので、自分は他に何を書くべきかと悩んでいるうちに、なんと、もう秋も深まる11月の終わりになってしまった。これはいかんと思いなおし、訪問先の中でも自分が特に関心を持ったところについて深堀してみようかと。それが、深センのハードウェア・スタートアップ・アクセラレータ「HAX」についてです。

 

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(HAXのオフィスに行った!)

ハードウェア・スタートアップ支援者のビジネスモデルが気になる

 今回、深セン観察会に参加した動機の一つは、以前から個人的に考えていた疑問に対する答えを見つけたいと思ったことだった。つまり、「ハードウェア・スタートアップへの支援」というものは、事業として成り立つものなんだろうか、ということ。もっと言えば、どうやったら「ハードウェア・スタートアップ支援」を持続性のある取り組みにできるんだろうか、ということだ。

日本でも、ハードウェア・スタートアップ支援を打ち出す企業が増えて盛り上がりを見せているけど、それが現状で事業として成り立っているかというと、どうもそう簡単なものではないらしい。今はまだ、各社が将来への期待から採算を度外視して取り組んでいるとしても、成果があがらなければ遅かれ早かれ撤退に追いやられてしまう。

そうなったら、せっかく充実しつつある「メイカーズのエコシステム」が縮小してしまうかもしれない。そんな個人的な疑問・懸念があって、世界で最も発達した「メイカーズのエコシステム」を持つと言われる深センで、そのヒントを見つけたいと思ったのだった。

そして、深セン観察会では実際に、メイカースペースやインキュベーション施設、量産工場など、エコシステムの中核をなす「ハードウェア・スタートアップの支援者」をいくつも訪問することができた。

そのなかでも、HAXはビジネス的にも(なんとなくの印象ではあるが)成功しているように見え、ここを詳しく調査してみると、先ほどの疑問の解消へのヒントが得られるかもしれないと感じられた。

というわけで、本記事では、HAXが「どのようなビジネスモデルを持っていて」、「どこを強みとしていて」、「どれくらい上手くいっているのか(あるいはいないのか)」、というところについて、あらためて調べて行きたいと思う。

 HAXのビジネスモデル

HAXのビジネスモデルは、高須さんの言葉を借りると「まだ会社の体をなしているか怪しいぐらいのよちよち歩きのハードウェア・スタートアップに対して出資し、ノウハウを与えて大企業に育て上げ、投資を回収する」というものだ。

観察会参加者であるJETROの木村公一朗さんが書いたレポートには、HAXの活動内容が簡潔にまとまっているので、引用させていただきたい。

HAXはベンチャーキャピタル(VC)SOSVの一部門で、フランス人のCyril Ebersweiler氏やBenjamin Joffe氏らが2011年、潘氏も関わりながらハードウェア系アクセラレータとしてこれを設立した。(中略)

HAXは半年ごとに15チーム(チームは3~5名体制が多い)を選んで、各社に資金を提供するとともに、事業を軌道に乗せるため、プロトタイピングやサプライチェーン管理、マーケティングクラウドファンディングなどの各種アドバイスを111日間にわたって行う(最後の2週間はサンフランシスコでデモを行う)。

これに対してHAXは、2万5千米ドルの資金提供であれば6%、10万米ドルであれば9%の株式を取得し、最終的にはスタートアップがIPO(新規株式公開)かM&A(合併・買収)でエグジットする際に資金回収することを目指す。卒業チームの出自と割合は、北米が約60%、欧州が約20%、アジアが約20%(中国が多い)であり、世界中の起業家が珠江デルタサプライチェーンを活用しながら、新製品を開発してきた。

 <引用元>木村公一朗『中国: 深圳のスタートアップとそのエコシステム(増訂版)』(2016年8月)

http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Overseas_report/1608_kimura.html

 スタートアップ・アクセラレータとは?

上で述べたHAXのようなビジネスモデルを持つ主体は、「スタートアップ・アクセラレータ」、あるいは単に「アクセラレータ」と呼ばれる。その起源は、2005年にスタートした「Y Combinator」にあって、それ以降、世界中で多くのアクセラレータが登場している。

リッチモンド大のSusan Cohen教授は、アクセラレータの定義について以下のように述べている。(ざっくり訳してしまったので、間違いがあったらご指摘ください) 

 アクセラレータは、スタートアップがビジネスモデルを定義し、有望な顧客セグメントを特定し、最初の製品・サービスを作り上げるための支援を行う存在である。そのために必要な資金や従業員といったリソースの確保に向けた支援もアクセラレータの役割に含まれる。

 具体的には、アクセラレータはスタートアップを定期的に募集・選考し、採択されたスタートアップに対して小額の出資を行うとともにワークスペースを提供し、3ヵ月間程度の「アクセラレータ・プログラム」を提供して、彼らの事業化プロセスを支援する。プログラムの期間中には、同じプログラムに参加するスタートアップ仲間との深い繋がりができ、また、メンターとのネットワーキングの機会を得ることもできる。メンターとなるのは、例えば、成功経験を持つ起業家やプログラムの卒業生、VC、エンジェル投資家、大企業の経営者などである。多くの場合、プログラムの最後には、VC等の投資家に向けた製品・サービスのお披露目会(Demo Day)が開催される。

<出所> Susan Cohen(2013)「What Do Accelerators Do? Insights from Incubators and Angels」http://www.mitpressjournals.org/doi/pdf/10.1162/INOV_a_00184

近年では、アクセラレータの数が増えて活動内容も多様化しているようだけれど、HAXの活動はかなり基本に忠実で、上の定義に示された事項はだいたい全て当てはまる。

 HAXを取り巻く競争環境

 HAXのアクセラレータ・プログラムに参加するスタートアップは主に欧米出身で、彼らはプログラム期間を終えると基本的にそれぞれの国に戻って事業化に取りかかる。そして、次に彼らの資金調達先となるのはシリコンバレーの投資家たちだ。

つまり、HAXは欧米で活動する他のアクセラレータとの競争に打ち勝ち、より有望なスタートアップを集め、また投資家を惹きつけていく必要がある。そして、このアクセラレータ間の競争が、今はかなり厳しいものになっている。

米国のシンクタンク「ブルッキング研究所」のレポートによれば、2015年時点で米国だけで170以上のアクセラレータが活動しているらしい。HAXの設立は2011年なので、ちょうどアクセラレータが急増し始めたころだ。

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<出所> Ian Hathaway(2016)「Accelerating growth: Startup accelerator programs in the United States」

https://www.brookings.edu/research/accelerating-growth-startup-accelerator-programs-in-the-united-states/

 

ここまで数が増えると、アクセラレータの市場も飽和しつつあるようで、評判の悪いアクセラレータは既に撤退に追い込まれている。

なにせアクセラレータは人気商売のような側面があって、評判の良いアクセラレータに有望なスタートアップや資金が集中しやすい。その結果、ひとにぎりのトップ・アクセラレータがダントツの成績をおさめてどんどん求心力を高めていく一方で、下位のアクセラレータには良いスタートアップも資金も集まらず、にっちもさっちもいかなくなっていく。

こんな生き馬の目を抜くような「アクセラレータ業界」にあって、HAXは後発組でありながらも、一定の評判と存在感を獲得しているように見える(HAXのプログラムに採択されるのは応募者の5%以下で倍率が20倍以上とのことなので、スタートアップからの人気の高さがうかがえる)。それはなぜだろうか。

 HAXの強み(他のアクセラレータとの比較)

 HAXのアクセラレータ業界のなかでの強みは、どこよりも早く「ハードウェア」に着目して特化したこと、そして、ハードウェアの開発・製造に適した深センに拠点を構え、そのエコシステムにしっかりと根を張っていることにある。

HAXの前身であるHAXLR8R(ハクセラレータ)の設立は2011年だから、いわゆる「メイカームーブメント」が世界的に注目される前年という絶妙のタイミングだった。アクセラレータとしては後発でも、ハードウェアの分野では世界初でナンバーワン。それがHAXの掲げた看板だ。

さらにHAXは、活動の拠点を深センに構え、当時はまだ脆弱だった深センの「メイカーズのエコシステム」に参加し、その発展に寄与してきた。そうすることで、深センのエコシステムが持つ強みが、そのままHAXにとっての強みとして活かされることになった。

(そのあたりの経緯については、高須さんの著作『メイカーズのエコシステム』に詳しく書かれている)

メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。 (NextPublishing)

HAXのウェブサイトには、アクセラレータ・プログラムへの応募を検討するスタートアップに対して「なぜわざわざ深センで開発する必要があるのか」を説明する文章が載っていて、これがまさに、他のアクセラレータには無いHAXの強みを端的に表している(そしてこれは同時に、他の地域にはない深センのエコシステムの強みでもある)。ざっくりと訳してみよう。

 中国(深セン)で開発するべき4つの理由(HAXのウェブサイトより)

01/ 深センは製造の現場に近い。深センにいれば、製品がどうやって作られているか、その開発と製造のプロセスを最初のところから理解することができる。そして、このことはハードウェアを作るうえでは極めて重要なことだ。

 02/ 深センのエンジニアは余所とは違う。深センのエンジニアは、コストの制約ありきで設計することに慣れている。これは、他の国のエンジニアが機能優先でコストを考慮しない傾向があるのと対象的だ。

 03/ 深センには山寨(Shanzhai)の文化がある。華強北の電気街で売っているような安っぽいソーラーランプやニセモノのiPhoneのなかには、しばしば面白い技術や便利な部品が入っていて、それらは近くの工場に行けばすぐ手に入る。それらをあなたが開発している製品に組み込んだっていい。そんな体験は他の国ではまずできない。

 04/ 深センでは開発コストが安い。そして、深センにいることで中国市場についての理解を深めることができ、将来的にそこであなたの製品を売る際に役立つ。

製造現場への近接性、エンジニアとのネットワーク、独特のものづくり文化、開発コストの低さ。これらはまさにHAXだけが持つ強みで、このことがHAXのアクセラレータとしての競争力を支えていると考えられる。

 

※以下、加筆・修正(2016/12/3)

本記事の公開後、HAXのGeneral PartnerのBenjamin Joffeさんとメールでやりとりをしていて、HAXの「強み」について補足してもらった。HAXの強みは、上で挙げているもの以外に、以下の3つがあるよ、とのこと。

HAXの強み

  • プログラムの内容:これまでに、5年間にわたりアクセラレータ・プログラムを運営して、100を超えるスタートアップを支援してきた。その過程で常にプログラムを改善してきており、その結果はクラウドファンディングでの達成額などにも顕著に現れてきている。
  • コミュニティ:HAXのプログラムの全ての卒業生が、メンターとして後輩の手助けをしてくれる。
  • 応募者の質と数:HAXはハードウェアの分野に特化した最初のアクセラレータであり、最も成果を出しているアクセラレータだ。だからこそ、世界中から最高のスタートアップが応募してくれる。

このように、アクセラレータは最初の立ち上げに成功してプログラムの回数を重ねていくと、その運営経験を通してノウハウや資源(コミュニティ等)を獲得し、どんどん内容を改善していくことができる。また、そのなかできちんと成果を出していけば、評判が高まってさらに有望なスタートアップを集め、成果につなげやすくなる。

これは、アクセラレータだけでなく、全ての「ハードウェア・スタートアップの支援者」にとって重要なポイントだと思う。

HAXの生み出している成果

このように、アクセラレータ業界の中で独自のポジションを確立しているHAXだが、実際のところ彼らのビジネスはどの程度「上手くいっている」のだろうか。

 実は今回、この点について客観的に分析しようとして、あまりうまくいかなかったという経緯がある。

HAXのプログラムの卒業生と、他のアクセラレータの卒業生の現状(活動状況、資金調達状況、イグジット状況)を整理して、両者の成績を比較しようとしたのだけれど、そもそもまだイグジットには至っていないスタートアップがほとんどだし、資金調達については公開されていないケースも少なくない。なので、それなりに時間をかけたのだけれど、結局「公開情報だけでアクセラレータの成績を評価することは困難」ということがわかっただけだった。(この記事の終わりのほうに、その悪戦苦闘の記録を残してあるので、もし関心を持っていただける方がいれば読んでみてください。。)

そこで、今回は客観的な評価は諦めて、またしても後からHAXのJoffeさんに連絡をとって、HAXの卒業生の現状について教えてもらった(2014年の第4期生について尋ねた)。非公開の情報も多いので、個別の企業名は出さずにまとめると以下のようになる。

HAX4(2014年)採択スタートアップの現状

  • 活動状況:HAXの4期目(2014年)のプログラムに採択された11社のスタートアップのうち、2016年11月の時点で活動をストップしているのは2社で、残りの9社は活動を続けている。そのうち3社は先行きが不透明な状況だが、他の6社は活発に活動している。
  • 資金調達:11社中、4社は100万ドル以上の資金調達に成功している。(HAXの母体であるSOSVからの調達も含む)。それ以外のスタートアップも、100万ドルには満たないが、それなりの金額を調達している。
  • イグジット:スタートアップがイグジットするには平均すると7~8年の時間がかかる。なので、2014年のプログラム卒業生がイグジットするとしても、それはもう少し先の話になる。

ちなみにこれは、事前に私が公開情報で整理した内容とはけっこう異なっている(特に資金調達の状況が)。やはり非公開の情報が多いみたいだ。だとすると、他のアクセラレータの卒業生も同様に非公開の情報が多いだろうから、アクセラレータ間の比較はやっぱりどうやっても難しいということだろう。

ともあれ、11社中6社が2年後の今も活発に活動していて、そのうち4社が100万ドル以上の資金調達に成功しているというのは、アクセラレータの成績としてはかなり優れたものだということは間違いない。

また、この他にも、JoffeさんからはHAXの成果やこれからのプランについていくつか教えてもらったので、公開できるものだけ紹介しておきたい。

  • HAXのプログラムは年々進化していて、最近のプログラムのほうが、より大きな成果が出ている。例えば、HAXの卒業生のなかで、KickStarterで100万ドルを超える調達に成功したスタートアップが9社いるが、その全てはここ2年間のプログラムから出ている。しかも、これらの9社は全部、KickStarterでの調達額トップ100に入っている。
  • 最近は、ロボティクスやヘルスケアの領域で、BtoBのビジネスを目指すスタートアップも増えていて、その中には、VCから100万ドル以上の調達に成功するケースも多くなってきている。(BtoBだとKickStarterは使わないことが多い)
  • ハードウェアの分野は、ソフトウェアに比べて資金調達までに時間がかかる。というのも、多くの投資家は、最初のプロダクトが市場でどう評価されるかを見てから投資の判断をくだしたがるからだ。HAXの場合、VCからの資金調達までに、プログラム卒業から6~18か月くらいかかることが多い。プログラムに参加したスタートアップの、本当の意味での成果がわかるのは、プログラムの卒業から最低でも4年くらいかかる。

まとめにならないまとめ

アクセラレータ」というビジネスモデルは、その成果が確定するまでに10年くらいの時間がかかるので、設立5年くらいのHAXがどのくらい「上手くいっている」のかは、結局のところまだよくわからない。

でも、HAXは競争の厳しいアクセラレータ業界のなかで、確かに高い評判を獲得して成果を生み出しており、かなり成功に近いところにいると言ってよいのではないかと思う。

HAXのビジネス的な成功は、「ハードウェア・スタートアップ支援」が事業として成立する可能性を示しているとも考えられ、これはとても希望が持てる話だ。

観察会での訪問やその後のやりとりを通じて、個人的にもすっかりHAXを好きになってしまったので、今後も継続的にHAXの動きについては追って行きたい。

今のところ、HAXのプログラムに応募する日本のスタートアップは本当に少ないみたいだけど、Joffeさん自身は日本との縁がかなり深い人で、日本からの参加者が増えることを心から願っているようだった。

もし、この記事を読んでくださっている人のなかで、HAXのプログラムへの応募を考えている人がいれば、ぜひ挑戦してみていただきたい。(そしてプログラムの実態などを教えてください!)

 

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 (HAXオフィスはすごくわくわくした)

 

 

 

 

 

 

 ※以下はボツ原稿です。何かの参考にはなるかもしれないと思い、残しておきます。

すごいスタートアップ・アクセラレータとは

アクセラレータ業界の中で独自のポジションを確立しているHAXだが、実際のところ彼らのビジネスは「上手くいっている」と言えるのだろうか。

そのことについて考えるうえで参考になりそうな資料を1つ見つけた。その名も「Seed Accelerator Ranking Ploject」

http://seedrankings.com/pdf/sarp_2016_accelerator_rankings.pdf

 

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<出所>Brian Solomon(2016)「The Best Startup Accelerators Of 2016」

http://www.forbes.com/sites/briansolomon/2016/03/11/the-best-startup-accelerators-of-2016/#10e09e0524f2

これは、リッチモンド大学、ライス大学、MITなど複数の大学が関わる研究プロジェクトで、独自の調査に基づきアクセラレータを評価し、ランキングを発表するという取り組みだ。残念ながら、このランキングにHAXは入っていないのだけれど、ここにランクインしているアクセラレータと比べることで、HAXの業界内での位置についても推測できるかもしれない。

ちなみに、このランキングでは、順位そのものを公表するのではなくて、上位のアクセラレータを松・竹・梅の3段階に分けて公表している。その内訳は、松が9件、竹が7件、梅が7件。集計対象は米国で活動する150のアクセラレータらしいので。アクセラレータとして「成功している」いうのは、「梅」に入るくらいがボーダーラインだろう。(上位1~2割くらい)

そこで、「梅」のアクセラレータを一つサンプルとして抜き出してみて、HAXの成績と比べてみることにした。抜き出したのは、HealthWildcatters。「梅」のカテゴリをざっと調べてみて、各年のプログラム採択スタートアップを全て公表しているところを選んだ。

http://healthwildcatters.com/companies/

なお、評価の軸は、「Seed Accelerator Ranking Ploject」にならうことにする。つまり、各アクセラレータのプログラムに参加したスタートアップの「イグジットの状況(IPOまたは500万ドル以上でのM&A)」、「20万ドル以上の資金調達の状況」、そして「活動状況(生存状況)」だ。

この他にも、「企業価値」や「プログラム参加者の満足度」といった指標が挙げられているが、これは調べきれないので諦めた。

けっこう手間がかかりそうだけどやってみよう。まずHAXから。

 HAXのプログラム採択企業の現状

 HAXで取り上げるのは、2014年の通算4回目のアクセラレータ・プログラムにした。これを取り上げた理由は、初期のプログラムよりは、ある程度回数を重ねた後のプログラムのほうが成果が安定しているだろう、というのと、あまりに最近のプログラムだと、まだ成果がはっきりしていない可能性がある、と考えたからだ。

ちなみに、通常のアクセラレータでは、プログラム卒業後の資金調達と言えばVC等からの出資を意味することがほとんどだが、ハードウェアを専門とするHAXでは、それらに加えて、KickStarterなどの購入型クラウドファンディングでの資金調達も重視しており、集計時にはこれを考慮した。

調べてみると、このような結果に。

 HAXアクセラレータ第4期生の現状

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 <出所>筆者作成

これをみると、「活動状況」については、11件中6件が製品・サービスを販売中、3件が開発中、2件が活動停止。「資金調達」に関しては、25万ドル以上の資金調達に成功した企業は11件中8件だったが、その内容を調べてみると、そのうち4件はHAXの母体のSOSVが出資者になっていた。また、「イグジット」した企業はいなかった。

 HealthWildcattersのプログラム採択企業の現状

 同様に、HealthWildcattersの2014年の採択企業について見てみよう。結果は以下の通り。

HealthWildcattersのプログラム(2014年)採択スタートアップの現状

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<出所>筆者作成 

このように、「活動状況」については、製品・サービスの提供を開始しているのは10社中4社。「資金調達」については、100万ドル以上の資金調達に成功した企業が3社ある。そして「イグジット」は無し。うーむ。

 

「ハードウェア・スタートアップのプロモーション」について(Tech in Asia のセッションメモ_FOVEの小島社長)

Tech in Asiaにちょっとだけ参加してきました。

いくつかのセッションを聴いて、FOVEの小島社長が登壇していたセッションが面白かったので、簡単にメモを作ってみました。ご参考まで。

  

テーマは、「ハードウェア・スタートアップのプロモーション」について

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 FOVE概要

  • FOVEは、日本のハードウェア・スタートアップの中では珍しく、世界的なプロモーションに成功している事例。例えば、TechCrunch USへの掲載、KickStarterでの450, 000ドルの調達など。
  • FOVEは、2014年5月に設立し、それから2ヶ月後には最初のPR動画を世に放った(IBMアクセラレータプログラムへの採択が決まり、そのプレスリリースにタイミングを合わせた形)。
  • その動画は、「視線追跡型のヘッドマウントディスプレイ」というFOVEのコンセプトを映像化しただけのもので、いつ発売するとも、値段はいくらなのかという情報も入れなかった。当時はまだ、プロトタイピングの段階であり、手元には他社のヘッドマウントディスプレイを改造して視線追跡機能を付けた簡易的なものしかなかった。
  • なぜそんなにも急いで動画を世に出したかというと、大手のOculusが、明日にも同じコンセプトの商品を作ると発表するかもしれないという危機感にさいなまれていたからである。「FOVEが視線追跡型ヘッドマウントディスプレイの先がけである」というイメージを作ることが絶対的に重要だと考えており、かなり無理矢理に動画を作った。
  • この動画は幸いなことに非常に話題を呼び、今に至るまで、視線追跡型ヘッドマウントディスプレイといえばFOVEというイメージは崩れていない。

 プロモーションの重要性

  • FOVEが他の日本発のスタートアップと違うところがあるとすれば、この「プロモーションに対する取り組みの姿勢」だろう。日本のスタートアップは技術志向が強いこともあり、自分たちの製品に自分たちが100%納得しないと、情報を外に出さないという傾向が強い。または、良いものを作れば、必ず口コミで広がっていくと信じているのかもしれない。しかし、良いモノであっても広がっていかないものは非常に多く、それでは宝くじを買うようなものであって経営ではない。
  • スタートアップが持つ資源・強みは、大企業等に比べてとても限られている。人材、資金、設備、ほとんどの要素で劣っていて、勝てるものと言えば、「スピード」と「人を惹きつける力」くらいだろう。そして、人を惹きつけるのは、創業者の人間的な魅力みたいなものも重要なのだろうが、何よりも「プロモーション」が大事だと思う。
  • PRには、外部委託のようなものだけでなく、社内の人的リソースも割く必要がある。日本のスタートアップの製品は、海外のメディア等でときどきバズるのだが、それぞれが単発で終わってしまいブームにまで至らないことが多い。本来は、バズったタイミングで、フォローして、メディアに情報を流したり記者にコンタクトを取るなど、情報を広げていくための努力をすべき。英語のメディアを常にチェックしておくくらいの心づもりが必要。

 KickStarterのこと

  • KickStarterは、既にかなりの部分で成功ノウハウが蓄積されており、それを知らずに徒手空拳でプロジェクトを発表してもヒットを生み出すことはできない。このノウハウは、KickStarter 専門のPR会社が握っており、これらの会社を使うことで成功率が跳ね上がる。
  • 映像の作り方、ストーリーの作り込み方、広告のタイミング、感度の高い消費者へのDMなど、PR会社が持つ専門的なノウハウが必要。
  • FOVEでは、2015年のKickStarterでのプロジェクトローンチにあたり、PR会社と1000万円ほどの価格で契約した。当時、手元には自己資金を含めたシードマネーが数千万円ほどしかない頃だったため、この支出には勇気が必要であったが、FOVEはサンフランシスコに本社があり、周囲にKickStarterでのヒットを経験した知人も多く、彼らのアドバイスに従った形である。JIBOやSKULLY(倒産済み)などはその典型例。
  • 私見ではあるが、これらのKickStarterの成功セオリーに正しくアクセスでき、1000万円程度を投じることができるのであれば、どんなプロダクトでも5000万円程度までは調達できる。ただ、これ以上の金額を集めようと思うと、製品や企業の魅力が重要となる。
  • 日本のスタートアップは、KickStarterの準備にかける費用は100~200万円程度が標準だろう。これでは、800万円くらいまでは到達できるが、それ以上には広がっていかない。
  • なぜ日本のスタートアップがKickStarterの準備に費用をかけないのかを考えると、そもそもKickStarterを使う目的がズレているからではないかと感じる。多くの日本のスタートアップは、KickStarterをプロトタイピングのための資金、シードマネーの確保のために使っているようだ。しかし、米国のスタートアップは、KickStarterをシリーズA、シリーズBの資金を呼び込むためのマーケティングツールとして使っている。つまり、KickStarterで多くのファンを掴み、話題となったことが評価され、VCから良い条件で資金を調達できるようになるのである。
  • 日本のスタートアップがヒットを飛ばせない理由は、製品の魅力が低い訳でも、技術が足りない訳でも無く、単に成功のセオリーを知らないことが原因だと感じている。

コミュニティの重要性

 

  • 当社は既に述べた通り、サンフランシスコに本社を構えている。そこにはExitを経験した起業家が「石を投げれば当たる」くらいの密度でいる。スタートアップのコミュニティに入り、そうした人と繋がると、生きたノウハウが手に入り、事業化のハードルがぐっと下がる。同様に、周囲に起業家が多いことで、自分の中でのリスクについての考え方が変わり、不可能と判断するラインが上がるという影響もある。

 日本の環境

 

  • 当社は、サンフランシスコ、ロンドン、日本の三箇所で製品開発を行ってきた。このうち、ハードウェア製品を開発する環境としては、日本がダントツに優れていると感じる。サンフランシスコもロンドンも、試作や製造の工場がなく、ハードに通じるエンジニアが見つからないなど、ハードウェア・スタートアップ泣かせな街である。日本は工場もあるし、エンジニアも多い。

 

以上

Maker Faire Tokyo タチコマ関連のパネルディスカッションまとめ

この週末はMaker Faire TOKYO 2016に行ってました。


初日にあった講演会の一つが面白かったので、備忘がてらメモを。(音量の問題などで声が聞き取れない箇所も多く、脳内で勝手に補完しているので、話者の言いたいことと食い違っている可能性は高い。)

“SFにおけるロボット”を活用したMAKE。その現在と未来。
攻殻機動隊 S.A.C. タチコマを活用した創作活動の広がり
http://makezine.jp/event/mft2016/presentations/
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【前置き】
士郎正宗の代表作品の一つ「甲殻機動隊」に出てくる非人間型のロボット「タチコマ」。世の中には、趣味が高じてタチコマを実際に作っちゃったマニアックな人たちが結構いる。このような「SFにおけるロボット」を「実際に作る」という行為にはどんな意味があって、どんな将来に繋がっていくのかを考えるパネルディスカッション。司会役は、Karakuri Productsの松村礼央氏。

【コンテンツとの関わり方】
甲殻機動隊のような「コンテンツ」に対して、消費者がとる態度は大きく3つに分けられる。一つは、純粋に「コンテンツを消費する」という態度。二つ目は「消費しつつも趣味的に自分で手を動かして作ってみる」という態度。三つ目は「消費して、作ってみて、さらにそれを積極的に外に出していく(情報発信など)」という態度。後ろの2つは、要は「二次創作」の領域で、かつ「Maker」の領域でもある。Maker Faireに出ているような人は3番目のカテゴリに含まれる。

【空想の具現化の際に気をつけていること】
アニメ上のタチコマは、当然ながら現実世界で再現することを念頭に置いたものではないので、そのままの形で再現することは不可能に近い。例えば重心の問題で自立しない、など。だから、タチコマを再現する際には原作に可能な限り近づけつつも細部を変えていく必要があり、そこが非常に難しい。大きく変えて原作ファンのイメージと遠いものになってしまっては良くないし、原作に忠実に作った結果ロボットとしての機能が低くなっては意味がない。だが、それがSFロボット製作の醍醐味とも言える。

実際に形にしてみることで得られる情報は非常に多く、この情報を逆に原作へフィードバックしていくことで、SF作品上のロボットをさらにリアルなものにしていく、ということも可能かもしれない。
原作と二次創作の間で相互作用が起きて、両者がともに良くなっていく、というような未来を実現したい。

ゲームマスターとの付き合いかた】
原作者や版権所有者などのことを「ゲームマスター」と呼ぶ。二次創作は、これらゲームマスターとどのように付き合うか、という点が重要。現状では、趣味の範囲の二次創作はゲームマスターによって「大目に見られている」という状況。ワンフェスなどでの「当日版権システム」もその延長と考えられる。ゲームマスターにとって、このような趣味的な二次創作は、原作の魅力を高めたりファンを増やすことに資するものと認識され、歓迎されるケースも多い。一方で、それが趣味の範囲から逸脱して、大きなお金が動くようなことになると話が変わってくる。ゲームマスターによっては「営業妨害」と捉えて大きなトラブルになる可能性もある。どこまでが許されて、どこからはNGなのか、その明確な境目は無く、今言えることは「お金が動きそうなときは、事前にゲームマスターとしっかりコミュニケーションをとる必要がある」ということだけ。

先ほど話題に出た通り、良い二次創作は原作にも良いフィードバックを与えるものなので、ゲームマスターと二次創作者が良い関係を築くことは、たとえ大きなお金が動くケースでも可能である。

【空想の現実化の先にあるもの】
ロボットに関しては、ロボットが人間社会に溶け込むための、ハード・ソフト両面の「インフラ」が整備されていない。
例えば、自動車で考えれば、自動車が走るための「道路」や、「信号」などがハード面でのインフラにあたり、「運転免許」や「歩行者を含めた市民のリテラシー(車は急に止まれない、みたいな常識)」などがソフト面でのインフラにあたる。

このようなインフラは、ロボットにはまだ整備されていないだけではなく、現状では、ロボットが普及するためにどのようなインフラが必要なのかすらわかっていないような状態であり、これを変えていくためにはSFの力を借りるのが効果的なのではないか。(このあたりは特に脳内補完しているので正確ではなさそう)

つまり、SF作品の中ではロボットが溶け込んだ社会の姿が描かれており、そこに必要なインフラも精緻に描かれている。だからこそ、SFのロボットを起点にロボットが実装された社会を考えていくことに意味があるのだろう。また、SFで既に描かれているロボットであれば、作品を知る多くの人が、「そのロボットがどのような役割を持ち、どのように動くのか」を理解しており、ソフト面のインフラとしての「ロボットに関する共通認識」を作る上でも効率的である。

ただ、SF作品ももちろん万能ではなく、そこに描かれていない要素も多いし、その世界観をそのまま現実に適用できるわけではない。例えば、甲殻機動隊の世界では、実はタチコマのようなコミュニケーションロボットは一般にまでは普及していない。つまり、「原作」と「あるべき未来(タチコマが広く普及している未来)」に乖離がある。この溝を埋めていくのは、二次創作者の役割だと考えている。

「原作」の枠の中だけで活動するのではなく、ある意味で原作を超えていく。そうすることで現実社会をより良く変えていくとともに、原作にもフィードバックしていく。つまり、目指すのは「SF」と「現実世界」が影響し合い、両者がともにより良いものに変化していくという将来像で、その相互作用のハブになるのが「二次創作者」である。

【通常のロボットとSFロボットの違い】
企業や大学が研究して開発する通常のロボットは、あらかじめ何らかの「目的」を持ったものとして作られている。しかし、「SFロボットの再現」にはそのような特定の目的はなく、ここからこれまでと違った新しい視点・新しい種類のイノベーションが起きるのではないかと考えている。

フェリシモ猫部「ネコノミストの研究室」連載始まりました

この度、フェリシモ猫部さんから貴重な機会をいただき、「猫と人の共生」について考える連載「ネコノミストの研究室」を持たせていただくことになりました。同じ会社で一緒に猫研究をしている同僚と交互に、月1くらいのペースで執筆予定です。

www.nekobu.com

頑張ります~。