飼猫・野良猫中央研究所

主に猫のこととスタートアップ・新規事業のこと。

「工場の祭典」@燕三条

少し前の話ですが、新潟の燕三条で10月上旬にやっていた大規模な工場見学イベント「工場の祭典」に行ってきました。

開け、工場! 工場の祭典 - Factory Festival

燕三条は、スプーンなどの日用品を作る工場が多数集積している地として名高く(ある人の話によれば日本のスプーン・フォークの90%以上が燕三条で作られているらしい)、工場の祭典でも50を超える工場が一般開放されて、見学や体験などのプログラムが行われていた。

我々の目的はいちおう、今MONO-Pで作ろうとしている「会社員に特化したアイススプーン」や、「シンプルで機能的な猫のトイレ」の開発に協力してくれる企業を探す、ということだったのですが、今回はイベントごとなので、イベントそのものを心から楽しもうという方針に。

 

東京から燕三条は新幹線で2時間程度なので比較的行きやすい。駅の中にあるインフォメーションでパンフレットをもらい、燕三条地場産業振興センターで自転車を借りて工場見学へ。少し雨がぱらつくこともあったけれど、移動には特に支障がない程度だったので助かった。工場と工場が結構離れているので、自転車移動だとなかなか大変だったが(ママチャリで、30キロくらいは走ったかもしれない)、その日はなんとか一日で3か所の工場を見学することができた。

 

1件目は、ステンレスのプレス加工でカレー皿やトレイ、建築資材等を作っている「イケダ」さんへ。ここでは、トレイやパッドのようなものも作っているので、猫トイレにちょうどよい金型を持ってるかもしれないと考えて、見学に参加した次第。実際にちょうどよさそうな金型がたくさん置いてあり、希望が見えてくる。

 

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(たくさんの金型が・・・)

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(プレスの工程)

プログラムとしては、一枚のステンレスの板から、いくつもの工程を経てカレー皿が作られる様子を見ていくというもの。見学後はそのカレー皿で社長特製のカレーを食べて、さらにそのカレー皿を持って帰れるという充実ぶり。参加費はしめて1000円也。安い。そして、年季の入った建物と機械で徐々にカレー皿が形作られていく様子は、見ていてとても楽しい。テンションが上がる。これは本当に、子どもとか大喜びだと思う。こうした現場を見ることで、子ども達のものづくりへの関心が高まればよいなと心から思う。

 

2件目はヘラ絞りの「時田工場」へ。ヘラ絞りとはなんぞやというと・・・

材料となる円盤状の金属板を金型とともに旋盤に取り付けて回転させ、金属板に「へら」と呼ばれる金属の棒で圧力を掛けて目的の形に成型する加工方法「へら絞り加工」を行う。へら絞り加工の中でも特に高度な「空絞り」という技法も操り、より複雑な形状や少量の生産にも対応できる金属製品の一次加工工場である。

とのこと。ここは、猫のトイレにちょうどよい金型がなかった場合も、ヘラ絞りなら作れるるのでは、と考えて参加した。実際に行ってみると、形状的にも素材的にも猫のトイレには不向きであることがわかる。でも、見学プログラム自体はやはりとても楽しい。

 


時田工場の見学@工場の祭典 - YouTube

 

 最後の3件目は「武田金型製作所」へ。 ここはMONO-P的な目的があったわけではなく、金型メーカーが名刺入れ等の最終製品を作って事業化している事例として興味を持ったところ。金型工場を見学したあとに最終製品のほうの話を聞けるはずだったのだが、金型工場見学が終わったところでこちらの時間が尽きてしまい、移動しなくてはならなくなった。無念。しかし、全体的に「見せる工場」を意識しているところとか、社員の方々の対応も手慣れており、きっと最終製品製造の事業がうまく好循環を生み出しているのだと感じる。

 

他にもたくさん見たいところはあったけれど、これでタイムアップ。その後、用事があって「工場の祭典」を企画・運営していた地場産業振興センターの方にお話しを伺う機会を頂いた。その方の言によれば、工場を一般に向けて開いていくという機運が、ここ1~2年で高まっているらしい。最終製品を作っている企業にとっては、一般の人に工場へ来てもらうことによって製品の魅力を直接・深いところまで伝えることができるし、その場での販売にも繋がる。部品等を作っている企業でも、こうしたイベントで一般の人と関わることが、従業員のモチベーションアップに繋がったり、新しい事業を生み出すきっかけになったりする。一社一社は小さい企業なので単独で人を呼ぶことは難しいが、燕三条の企業集積を活かせば、このような面白いイベントが実現できる。

 

燕三条をはじめ、日本の多くの小規模な工場では、大口の取引先の「下請け」となっているところが多い。大手企業の「下請け」でいいると、その企業から継続的に仕事がくる間は安泰だけれど、そうでなくなった場合に売上が激減するというリスクを抱えている。しかも、近年(といってもかれこれ10年以上言われていることだけど)大手企業が海外に拠点を移す動きが強まっており、国内に留まる工場は仕事を失いつつある。

 

このような、「下請け的な仕事の減少」という現象は全国で起こっていて、多くの中小規模の工場が、それに代わる仕事を作りだそうと必死になっている。「工場の祭典」もそのような背景があって企画されたイベントだろう。つまり、「下請け的な仕事」の代わりに、一般の人向けの事業を作ろう、その事業づくりの方法を模索するための第1歩として、まずは一般の人たちと交わる機会を作ろう、というもの(だと思う)。

これが高じれば、もしかすると、工場見学や工場体験そのものを商品化する旅行業的な事業が生まれるかもしれないし、社外の色々な主体の持つアイデアを受け止めて商品開発を支援するような事業も生まれるかもしれない。

いずれにしろ、下請け的な産業構造の崩壊は、多くの中小企業とって重い重い課題ではあるけれど、その危機意識の中からこうした創造的な取り組みが生まれてくるというのは大きな救いであるなと感じる今日この頃です。