飼猫・野良猫中央研究所

主に猫のこととスタートアップ・新規事業のこと。

データから考える「猫の殺処分」問題 ~「保健所の猫」は、どこから来てどこへ行くのか~

明日から「動物愛護週間」ですね。この時期は、新聞やテレビ等でも動物愛護関連の話題をよく目にしますが、その中でも特に頻繁に取り上げられるのが「犬・猫の殺処分問題」です。

この問題、実はかなりデリケートですし、極端なことを言う人も少なからずいて、下手なことを書くと炎上しかねないテーマであることは確かです。

でも、逆に言うと、世の中に客観的な情報があまり出ていなくて、そのために主観的な議論がなされやすくて、だからこそ議論が荒れやすいという側面もあるのではないかと感じています。今求められているのは、客観的な事実の積み上げではなかろうか。

そこで、環境省が公表している『犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況』と、NPO法人地球生物会議が出している『全国動物行政アンケート結果報告書平成24年度版』のデータを使って以下のような図を作ってみました。

「保健所の猫」は、どこから来てどこに行くのか

図1:

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この図は、埼玉県の保健所等に連れてこられた猫が「どこから来て」、「どこに行くのか」の割合を示したものです。なぜ埼玉県かというと、ここは動物愛護の先進地域として有名で、データがかなり充実している&信頼性が高いと考えられるからです。というのも、動物愛護行政に関する業務は、都道府県庁や政令市・中核市が管轄していて、自治体によって統計の取り方や正確さが大きく異なるようなのです。だから、下手に全国のデータを引っ張ってくるよりも、信頼できる地域のデータを使った方が精度の高い分析ができるはず。

「保健所の猫」はどこから来るのか

 まず、図の左側を見てみたいと思います。これは、保健所に収容される猫がどこから来るのかを示しています。

データ上では、「所有者からの引取」、「所有者不明の引取」、「負傷収容」と3つに分かれていて、それぞれ「子猫」と「成猫」でも分かれています。

このうち、「所有者からの引取数」は、飼い主がいたけど、飼いきれなくなったなどの理由で保健所に連れてこられた猫の数を指します。

「所有者不明の引取数」は、野良猫や捨て猫・迷い猫を指します。ある自治体職員の方に聞いたところによると、この「所有者不明の引取」のうち大多数は、親猫が事故や育児放棄などでいなくなってしまった子猫たちとのこと。

最後に「負傷収容」ですが、これは事故や病気などで動けなくなっている猫を保健所等が収容したものを指します。ここが微妙なところなのですが、この「負傷収容」の中には、収容した時点で亡くなっている猫や、瀕死の状態で保健所に運ばれてきて、そのまま亡くなってしまう猫なども含まれているケースがあるそうなのです。だとすると、ここのカテゴリを、元気な状態で連れてこられた猫と一緒にして考えてしまうと、思わぬ誤解を招くことになりかねません。ですから、今回は「引き取り」と、「負傷収容」は完全に切り分けて図を作っています。

中の数値を見ていくと、平成24年度に埼玉県の保健所等が引き取った猫(負傷収容除く)は1,468匹。このうち46%が「飼い猫」で、54%が「野良猫等」ということになります。そして、引き取られる猫のうち、実に87%が「子猫」。悲しい・・・。

 

「保健所の猫」はどこへ行くのか

次に、図の右側を見ていきます。ここは、「保健所の猫」たちがどこへ行くのかを示したものです。いちおう、グラフも作ってみました。

図3:

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これを見ると、保健所の猫のうち、じつに84%が「殺処分」という最期を迎えています。埼玉県は行政がかなり譲渡活動に積極的なのですが、猫の「もらい手」が圧倒的に足りないというのが現状のようです。 

グラフのなかで、「外部団体・ボランティアへの譲渡」という項目がありますが、ここが今、どんどん伸びてきているという情報もあります。

今後、殺処分をさらに減らしていくためには、「外部団体・ボランティア」は極めて重要な役割を担うことになるはず。行政にとっても、こうした団体や人たちの活動をいかに支援し、連携していくかが、大きな政策課題になっているようです。

でも、これも自治体によって温度差がかなりあって、例えば同じグラフを全国平均で作ると、以下のようになります。

図4:

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もちろん地域によって状況が大きく違うので一概には言えないですが、埼玉県は全国平均よりもかなり「外部団体・ボランティアへの譲渡」に力を入れていて、それが「殺処分」の比率を全国平均よりも大幅に押し下げている、というようにも読み取れます。埼玉県すごい。

猫の殺処分問題について、今の時点で言えること

このような形で整理してみましたが、もちろんこれはただの「データ」であって、本当に重要なのは、ここから何を読み取り、どのような手立てを講じていくか、ということです。それについては、また改めて考えて書いてみようとも思いますが、いちおう、ここまで書いてきて考えたことを、少しだけ書いておこうと思います。

統計の取り方はもう少し考えたほうがよさそう

最初のほうでも述べましたが、「殺処分」の問題は非常にデリケートで、だからこそデータに基づく客観的な議論を積み重ねていく必要があります。でも、肝心の「データ」が、どうにも使いにくい。

例えば、先にも述べたように、用語の定義がきちんと決まっておらず、自治体によって解釈が違い、全国レベルでの集計が意味をなさない、というのはその代表でしょう。

また、「負傷収容」の中に、「どうやっても助けられない猫(収容時に亡くなってるとか)」と「譲渡先が見つかれば助かる猫」が混じっているなど、分けるべきものが分かれていないのも問題かと。

環境省が、このあたりの用語の定義の統一と、統計項目の見直しをしていただけると、殺処分問題についての正しい理解が広まって、建設的な議論ができるのではないかと思ったりしています。

保護団体・ボランティアの役割ってほんとに大事ですね

図3と図4を比較するだけでも、保護団体やボランティアの活動の重要さが実感できます。

保健所では、施設のキャパシティや予算の問題から、引き取った猫をそんなに長くは置いておけないし、新たな譲渡先を探すにも限界がある。そんな行政の「限界」を補っているのが保護団体やボランティアの存在です。猫たちを殺処分前に引き取り、「一時預かり」と「譲渡先探し」をすることで、猫たちに新しい飼い主が見つかる可能性を引き上げています。

我が家でも、「譲渡先探し」まではできないけれど、「一時預かり」のボランティアならできるかな。やってみようかな。しかし、我が家の広さでこれ以上猫が増えたら、ちょっとした猫屋敷になってしまう。

もうすこし考えてみます。

 

追記:続編として以下の記事を書きました。

shashin.hatenablog.com