飼猫・野良猫中央研究所

主に猫のこととスタートアップ・新規事業のこと。

朝日新聞「流通過程で死ぬ犬猫2万匹」記事の雑感

朝日新聞AERAから、ショッキングな見出しの記事が出ていました。

digital.asahi.com

これは、全国のペットショップ等が行政に提出した「犬猫等販売業者定期報告届出書」を集計した結果のようです。全国の自治体に情報公開請求をして、約15,000件の報告書を集計するだけでも数百万の経費がかかるでしょうし、NPO等ではなかなかできない、とても有意義な調査だと思います。

10月5日発売のAERAに詳細が掲載されるようで、今の時点では上記の記事上のざっくりした内容しかわからないですが、気になる点がいくつかあったので書いておこう。

犬と猫では事情がずいぶん違う

今回の朝日新聞の記事もそうですが、動物愛護関係の記事の多くは「犬」と「猫」をまとめて扱っていて、しかも、「犬猫」と言いながらも、実際には犬のことを中心に述べていることが多い。今回の記事の執筆者である太田匡彦氏も、犬が関心の中心のようで、以下のような著作もあります。犬を殺すのは誰か ペット流通の闇 (朝日文庫)

しかし、犬と猫とでは、殺処分にしてもペット流通にしても、問題の構造がずいぶん違っています。「犬猫」とまとめて論じてしまうと、猫に関しては誤解が生じたり、本当の問題が埋もれてしまいやすくなる。これはけっこう大きな問題だと感じています。

ペットショップでの猫の流通は意外と少ない

例えば、今回の記事のテーマである「ペット流通」に関して言えば、以下のようなデータがある。

図1:ペット(犬)の入手先

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これは、犬の飼い主に対して、その入手経路を尋ねたもので、「ペット専門店から」が47%、「ブリーダーから直接」が19%で、おおよそ4分の3の飼い主が、「ペット流通」を通じて犬を入手していることになります。これだと、確かに「犬の愛護・福祉」において、ペット流通業界が果たすべき役割は極めて大きいと考えられます。

 一方で、同じ質問を猫の飼い主にすると、以下の結果に。

 図2:ペット(猫)の入手先

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このように、「ペット専門店から」が15%、「ブリーダーから直接」が4%で、「ペット流通」を通じて猫を入手している飼い主は全体の5分の1程度ということになります(複数回答なので厳密ではないです)。

もちろん、数が少ないから問題にならないかと言うとそうではないのですが、それでもこの違いは重要ではないかと思います。

「死因」についても考えよう

記事上で「流通過程で死んだ」という表現がたくさん出てきますが、これもちょっと気をつけないと危険だと感じます。

というのも、この「流通過程での死亡」の数の中には、「不適切な扱いが原因となった死亡」と、「生まれつきの病気等での死亡」が混ざっているはずです。前者はもちろん大問題ですが、後者はどうやっても避けようがない。

元データである「犬猫等販売業者定期報告届出書」には死因の記載義務がないので、集計のしようがないのですが、だからと言ってそれを、いかにも「全ては流通業者が不適切な扱いをして死なせてしまっている」と言わんばかりに書いてしまうのも、問題があるように思われます。

おそらく、どこかに「子犬・子猫の病気での死亡率」を調べたような論文等があるでしょうから、それを差し引いて推計するくらいのことはしてもよいのでは。

動物愛護というテーマに関しては、極端な議論がなされやすい傾向があり、今回のようなショッキングな記事は数字が独り歩きすることも多い。だからこそ、情報を出す側は、もう少し慎重な物言いをしていくことが大事なのかなと感じました。