飼猫・野良猫中央研究所

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【書評のようなもの】戦争における人殺しの心理学(デーブ・グロスマン)

最近は仕事が少し落ち着いているので、ぼちぼちと本を読んでいる。ここ数週間で読んだ本はけっこう良いものが多かったのだけれど、なかでもこの「戦争における人殺しの心理学」は秀逸であった。

戦争において人が人を殺す際に「人の精神」にどのような作用が起こっているのかを、実際に戦争に参加した軍人の膨大な証言をもとに研究し明らかにした本で、文庫本とは言え500ページ近くにもなる読みごたえのある一冊。

 

長ーい本ではあるが、この本の中心になるテーマはけっこうシンプルで、「人は他人を殺したくないし、実際にめったなことでは殺せない」ということ。

近代以前の戦争の記録を紐解いていくと、至近距離での銃撃戦においても実際に相手に向かって発砲している兵士は実は少なく、なにかしら理由をつけて撃たないとか、相手の頭上に向かって撃つなどして、なんとか人殺しを回避しようとする兵士が全体の8割以上にのぼっていたらしい。そして、戦争において積極的に人を殺す人は兵士全体の2%程度で、これはもともと平常の人間社会では異質とされる「社会的病質者」と呼べる人たちとのこと。(読み返しながら書いている訳ではないので、用語とか数字はちょっと間違ってるかも)

多くの戦争映画やマンガ・アニメだと、主人公はもとより普通の兵士もそれほど抵抗を感じているそぶりもなく敵を殺しているが、「そんなことありえない」というのが実際らしい。

こうした記録を読んでいると、こういう表現が正しいかはわからないけれど、ある意味でほっとするというか、救いがあるな、と感じる。そうだ、我々は人を絶対に殺したくないのだ、そうなんだよ!このやろう!という気持ちになる。

 

私は考古学とか民俗学っぽい本を読むのが好きなので、昔の戦争の話なども読むことが多い。そうすると、やっぱり結構悲惨な話も出てきて気がめいることもある。「人の本性って結局は残酷なんだろうか」と思ってしまっていたところがある。そんな私にとって、この本は救いだ。人は、国家とか権力とかに人を殺すように強いられるけれども、どれだけ強いられても普通の人は人を殺さない。

 

ただ、この本の後半を読んでいくと、もっと恐ろしい話がぽろぽろと出てくる。相手との距離があったり、戦車や航空機・ミサイルなど、相手との間に機械が介在していると、人殺しに関して抵抗感が薄くなる。近現代の戦争はほとんどが遠距離の相手を機械で殺傷する戦争なので、どんどん心理的な抵抗が小さくなり、被害者の数も増加する。とか。さらに、現代の軍は、この「人を殺したくない」という人の心をコントロールし抑え込む技術を発展させているとのこと。例えば、銃撃の訓練において、できるだけリアルな的(まと)を用いるなど、訓練と実戦の境目をあいまいにしてしまうことで、実戦でも条件反射的に人を殺せるようにしてしまう、とか。恐ろしい。

 

軍とか国家とかの、大きな組織は構成員を思い通りに動かす技術・ノウハウをどんどん高めていて、でも中の人はそんなにすぐには変われないので、いいように使われてしまう。これは本当に不幸なことだ。「人を殺したくない個人」としては、これらの国家とか軍とかの「やり口」を知っておくことで最低限の防衛をしていかんとな、と思うところ。