飼猫・野良猫中央研究所

主に猫のこととスタートアップ・新規事業のこと。

「ハードウェア・スタートアップのプロモーション」について(Tech in Asia のセッションメモ_FOVEの小島社長)

Tech in Asiaにちょっとだけ参加してきました。

いくつかのセッションを聴いて、FOVEの小島社長が登壇していたセッションが面白かったので、簡単にメモを作ってみました。ご参考まで。

  

テーマは、「ハードウェア・スタートアップのプロモーション」について

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 FOVE概要

  • FOVEは、日本のハードウェア・スタートアップの中では珍しく、世界的なプロモーションに成功している事例。例えば、TechCrunch USへの掲載、KickStarterでの450, 000ドルの調達など。
  • FOVEは、2014年5月に設立し、それから2ヶ月後には最初のPR動画を世に放った(IBMアクセラレータプログラムへの採択が決まり、そのプレスリリースにタイミングを合わせた形)。
  • その動画は、「視線追跡型のヘッドマウントディスプレイ」というFOVEのコンセプトを映像化しただけのもので、いつ発売するとも、値段はいくらなのかという情報も入れなかった。当時はまだ、プロトタイピングの段階であり、手元には他社のヘッドマウントディスプレイを改造して視線追跡機能を付けた簡易的なものしかなかった。
  • なぜそんなにも急いで動画を世に出したかというと、大手のOculusが、明日にも同じコンセプトの商品を作ると発表するかもしれないという危機感にさいなまれていたからである。「FOVEが視線追跡型ヘッドマウントディスプレイの先がけである」というイメージを作ることが絶対的に重要だと考えており、かなり無理矢理に動画を作った。
  • この動画は幸いなことに非常に話題を呼び、今に至るまで、視線追跡型ヘッドマウントディスプレイといえばFOVEというイメージは崩れていない。

 プロモーションの重要性

  • FOVEが他の日本発のスタートアップと違うところがあるとすれば、この「プロモーションに対する取り組みの姿勢」だろう。日本のスタートアップは技術志向が強いこともあり、自分たちの製品に自分たちが100%納得しないと、情報を外に出さないという傾向が強い。または、良いものを作れば、必ず口コミで広がっていくと信じているのかもしれない。しかし、良いモノであっても広がっていかないものは非常に多く、それでは宝くじを買うようなものであって経営ではない。
  • スタートアップが持つ資源・強みは、大企業等に比べてとても限られている。人材、資金、設備、ほとんどの要素で劣っていて、勝てるものと言えば、「スピード」と「人を惹きつける力」くらいだろう。そして、人を惹きつけるのは、創業者の人間的な魅力みたいなものも重要なのだろうが、何よりも「プロモーション」が大事だと思う。
  • PRには、外部委託のようなものだけでなく、社内の人的リソースも割く必要がある。日本のスタートアップの製品は、海外のメディア等でときどきバズるのだが、それぞれが単発で終わってしまいブームにまで至らないことが多い。本来は、バズったタイミングで、フォローして、メディアに情報を流したり記者にコンタクトを取るなど、情報を広げていくための努力をすべき。英語のメディアを常にチェックしておくくらいの心づもりが必要。

 KickStarterのこと

  • KickStarterは、既にかなりの部分で成功ノウハウが蓄積されており、それを知らずに徒手空拳でプロジェクトを発表してもヒットを生み出すことはできない。このノウハウは、KickStarter 専門のPR会社が握っており、これらの会社を使うことで成功率が跳ね上がる。
  • 映像の作り方、ストーリーの作り込み方、広告のタイミング、感度の高い消費者へのDMなど、PR会社が持つ専門的なノウハウが必要。
  • FOVEでは、2015年のKickStarterでのプロジェクトローンチにあたり、PR会社と1000万円ほどの価格で契約した。当時、手元には自己資金を含めたシードマネーが数千万円ほどしかない頃だったため、この支出には勇気が必要であったが、FOVEはサンフランシスコに本社があり、周囲にKickStarterでのヒットを経験した知人も多く、彼らのアドバイスに従った形である。JIBOやSKULLY(倒産済み)などはその典型例。
  • 私見ではあるが、これらのKickStarterの成功セオリーに正しくアクセスでき、1000万円程度を投じることができるのであれば、どんなプロダクトでも5000万円程度までは調達できる。ただ、これ以上の金額を集めようと思うと、製品や企業の魅力が重要となる。
  • 日本のスタートアップは、KickStarterの準備にかける費用は100~200万円程度が標準だろう。これでは、800万円くらいまでは到達できるが、それ以上には広がっていかない。
  • なぜ日本のスタートアップがKickStarterの準備に費用をかけないのかを考えると、そもそもKickStarterを使う目的がズレているからではないかと感じる。多くの日本のスタートアップは、KickStarterをプロトタイピングのための資金、シードマネーの確保のために使っているようだ。しかし、米国のスタートアップは、KickStarterをシリーズA、シリーズBの資金を呼び込むためのマーケティングツールとして使っている。つまり、KickStarterで多くのファンを掴み、話題となったことが評価され、VCから良い条件で資金を調達できるようになるのである。
  • 日本のスタートアップがヒットを飛ばせない理由は、製品の魅力が低い訳でも、技術が足りない訳でも無く、単に成功のセオリーを知らないことが原因だと感じている。

コミュニティの重要性

 

  • 当社は既に述べた通り、サンフランシスコに本社を構えている。そこにはExitを経験した起業家が「石を投げれば当たる」くらいの密度でいる。スタートアップのコミュニティに入り、そうした人と繋がると、生きたノウハウが手に入り、事業化のハードルがぐっと下がる。同様に、周囲に起業家が多いことで、自分の中でのリスクについての考え方が変わり、不可能と判断するラインが上がるという影響もある。

 日本の環境

 

  • 当社は、サンフランシスコ、ロンドン、日本の三箇所で製品開発を行ってきた。このうち、ハードウェア製品を開発する環境としては、日本がダントツに優れていると感じる。サンフランシスコもロンドンも、試作や製造の工場がなく、ハードに通じるエンジニアが見つからないなど、ハードウェア・スタートアップ泣かせな街である。日本は工場もあるし、エンジニアも多い。

 

以上